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軟骨細胞によるＭＭＰ−３産生とＴ細胞の関係

Ｔ細胞との相互作用によってもたらされる軟骨細胞の変化を、ＭＭＰ−３産生を指標にして調べました。

膝関節置換術（ＴＫＡ）を受けた変形性膝関節症患者から得た関節軟骨から軟骨細胞を分離し、単層培養を行いました。

そしてＴＫＡ後２週目に同一患者の末梢血からＴ細胞を分離し、２４穴プレートで次の共培養系実験を行い、ＭＭＰ−３濃度を測定しました。

１．変形性膝関節症軟骨細胞の単独培養(Ｃ)

２．変形性膝関節症軟骨細胞の単独培養に分子量１９０万のヒアルロン酸（ＨＡ）を１ｍｇ／ｍｌで添加（Ｃ＋ＨＡ）

３．軟骨細胞とＴ細胞の共培養（Ｃ＋Ｔ）

４．軟骨細胞とＴ細胞の共培養に分子量１９０万のヒアルロン酸を１ｍｇ／ｍｌで添加（Ｃ＋Ｔ＋ＨＡ）

の４群に分け、それぞれの培養上清中のＭＭＰ−３濃度をＥＬＩＳＡにより測定しました。

ＭＭＰ−３産生量の変化は、変形性膝関節症軟骨細胞単独培養（Ｃ）の培養上清中のＭＭＰ−３濃度を１とした場合の比（ＰＲ）で表しました。

変形性膝関節症軟骨細胞を自己末梢血Ｔ細胞と共培養すると（Ｃ＋Ｔ）、変形性膝関節症軟骨細胞単独培養（Ｃ）と比較してＭＭＰ−３のＰＲが有意に上昇しました。

共培養の系にヒアルロン酸を加えておくとこのＰＲの上昇は抑制されました。

ＭＭＰ−３はアグリカンの分解に直接関与するほか、ＭＭＰ−１やＭＭＰ−９など他のＭＭＰの活性化にも関与する重要なプロテアーゼです。

恐らく変形性膝関節症末期に関節腔に露出した軟骨細胞と関節液中のＴ細胞が接触すると、軟骨細胞からのＭＭＰ−３産生が上昇し、軟骨周囲のＭＭＰが活性化されて基質が分解され、軟骨細胞の脱落を促進することが考えられます。

ヒアルロン酸は変形性膝関節症の治療のために関節内投与され、疼痛軽減、関節機能改善に優れた薬効を示しています。

その作用メカニズムについては潤滑作用や軟骨・滑膜細胞に対する様々な薬理作用が示唆されていますが、新たなメカニズムとして関節内における軟骨細胞とＴ細胞の免疫応答を修飾する可能性が示唆されました。

すでに関節リウマチ（ＲＡ）患者で滑膜の活性化Ｔ細胞が関節軟骨に接着し、軟骨基質の破壊を誘導し、ＧＡＧの遊離を促進することを示しており、高分子量の１９０万ヒアルロン酸が分子量依存性に有意にこの軟骨基質破壊を抑制することを示しました。

この関節リウマチ患者軟骨での結果は、変形性膝関節症患者軟骨とＴ細胞の接着によるＭＭＰ−３の産生充進の結果とも合致しており、今後変形性膝関節症と関節リウマチにおける関節軟骨破壊のメカニズムの異同を考える上で極めて興味深い成績といえます。

現時点では軟骨細胞とＴ細胞が関節腔内で接触することを示唆する明確な証拠は得られていませんが、今回の結果は軟骨細胞が潜在的に免疫反応に関与する能力を有していることを示す成績です。

（続く）

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